1.はじめに
2.KPIとは
3.「適切なKPI」のために認識しておくべきこと
4.目標達成のためのKPI運用「6つの実践手法」
5.最後に
SFAの導入によってKPIが設定できたというお話をお聞きすることがあります。
「SFAを導入することで、様々な数値が記録できるようになりました。数値をもとに表やグラフを簡単に作成し可視化することができています。その数値をKPIに設定することにしました」
もし上記のような状況でKPIの数値を設定したのだとすれば、それは本来の「KPI」とは言えない可能性が高いです。
「KPI」は「重要業績評価指標」の略称で、「KGIの先行指標」とも言われています。
「KGI」は「重要目標達成指標」の略称です。3年/1年/今月/本日といった長期スパンから短期期スパンを問わず、ゴールとして設定された目標値そのもののことを指しています。
KGI達成に向けて、プロセスが適切に実施されていているかどうかを、中間的に計測するのが「KPI」であると言えるでしょう。
「先行指標」という言葉通り、「KGI」の達成を前提に先行して計測されるべきものです。そのため「KPI」が順調に推移しているのであれば、自然と「KGI」が達成される関係性にあるべき指標です。
しかし「KGI」「KPI」という言葉自体を知っている方は多くても、「KPI」が「KGIの先行指標」として実際に活用されているかと言うと、そうではないケースが多々見受けられます。
前述した「SFAによって見えるようになった数値がKPIである」という話は、まさにそのケースに該当していると言えるでしょう。
導入したSFA上の設定や運用ルール次第で、営業に関する数字を可視化することは容易にできるようになります。「KGIの先行指標」として適切にKPIを設定することさえできていれば、SFAを活用してKPIを管理することは有効と言えるでしょう。
その一方で、KGIを意識することなくSFAに表示されたままの数値をもとにKPIを設計してしまった場合、成果に繋げることは困難です。
<うまくいかない事例>
売上目標がKGIとなっているとき、SFAで明確となった「架電件数」をそのままKPIに設定してしまう。
→架電件数を多くすれば、その分だけ売上が伸びるとは限らない。
では「『KGIの先行指標』として適切にKPIを設定すること」と「SFAをうまく活用すること」をどのように両立させればいいでしょうか。
KGIが自然に達成できるような「適切なKPI」を設定するためには、どのような思考や手順が必要なのでしょうか。
上図のような関係性を理解することが必要です。
KGIの「先行指標」となるためには、そもそもどうなればKGIが達成できるのかという「KGI達成のための成功要因」を明確にする必要があります。それが「CSF(Critical Success Factor)=主要成功要因」です。
「CSF」を意識して「KPI」を検討した例をあげてみましょう。
【例1】既存顧客に対して、リピート受注やクロスセル、アップセルをすることで事業が成り立っているビジネスモデルの場合
CSF=信頼関係を構築すること
既に購入している顧客がまた同じ相手から購入しようと行動を起こすには「信頼関係」がとても重要であると言えるかもしれません。
「信用できる購入先だ」「また、貴社の営業から購入したい」「貴社の営業の言うことであれば、どうやら信じてよさそうだ」という感情的価値を感じていれば再び購入する可能性は高くなるでしょう。
KPI=顧客にとっての競合他社情報を週に1回提供する
「顧客にとっての競合他社情報を週に1回提供する」ことをKPIとし、その数値が〇〇件まで積みあがっていることを達成すべきKPI数値として活動を行うのはいかがでしょうか。
競合他社の情報を伝えることができれば、顧客が営業戦略を立てる段階などで有用な情報となり得ます。
顧客が求めていることに応えて積み重ねることで「この営業パーソンからの情報は活かすことができる。頼れる存在だ」という認識が生まれ、顧客との信頼関係を構築できる可能性は高まるでしょう。
CSFである「信頼関係を構築すること」が満たせる項目をKPIに設定できていることになります。
実際に目指すべきKPIが達せられた暁には「受注」という結果(KGI)に繋がるでしょう。
【例2】新規顧客に対して、スピード感をもって営業活動をする必要があるビジネスモデル
CSF=わかりやすい商品価値
スピード感をもって購入してもらいたいときに重要なことは、商談の場で即座に決断できる価値を提供することです。そのためには「わかりやすい商品価値」を明らかにすることが有効だと言えます。
商材を購入することで顧客が求めている価値を満たすことが明らかになれば、購買意欲を高める一助となります。商品が持つ特性が生み出す「価値」を合理的かつ明確に伝えることの方が、重要な要因と言えます。
KPI=顧客のニーズに近い成功事例を1社に対して最低3つは紹介すること
素早く的確に顧客のニーズにこたえられる商材であることを示すためには「顧客に商品の価値を伝えられる行動の数値」がわかる行動をKPIとして設定することが適切と言えるでしょう。
「顧客が抱えている課題と同じ課題感を持った顧客の成功事例を伝えること」のような内容をKPIにした方がKGIへの先行指標としては適切と言えます。
前項では「CSF」という考え方に基づいて適切なKPI設定する一例を紹介しました。では、どのような手順で進めれば、KPI運用の実践になるでしょうか?本項では、6つの手順をお示しします。
手順1:目標(ゴール)となる数値(売上金額等)を明確にする
「どのような状態がゴールなのかを明確にする」ということが第一歩です。
目の前にある業務や作業を行った結果を見て「これがゴール(成果)だ」と後になって成果を探すようなことがないよう、まず始めに目指すべきゴールを明確にします。
手順2:目標(ゴール)から逆算したプロセスを設計する
次に「どのようなプロセスを経ることで目標を達成できるのか」という「勝ち筋」を設計しましょう。この時に注意しなければならないのは、あくまでも「勝ち筋」を設計することです。「手順」を示すことは「勝ち筋」を設計することにはなりません。
もし「同じ業界なら同じ手順で業務が流れるはずである」という視点でプロセスを設計した場合、競合他社に勝つことはできません。競合他社と同じ手順をたどっただけでは、差別化はできず「勝ち筋」に繋がるわけではないからです。
手順3:プロセスにおけるKPI(重要業績評価指標)を設定する
前述した通り、KGIが自然に達成できるような「適切なKPI」を設定するためには、CSFを考慮すべきです。目標(ゴール=KGI)達成のためのCSFをもとにしたKPIを設定しましょう。
手順4:KPIにおける行動量を設定する
指標であるKPIが決まったら、定量的に測定できるよう行動量を設定しましょう。具体的には下記のようなポイントを押さえてください。
・指標がどのような数値になればKGIにたどり着くのか
・どのタイミングでどれくらいの値を達成していれば、順調に推移していると言えるのか
例:1週間経過した時点で3件の見積提出ができていれば順調である
手順5:KPIの計測方法を決める
設定したKPIの数値がどこまで達成できているかを随時把握できる計測方法を決めましょう。重要なのは、明確でスピーディーに測定できることです。
<計測方法の一例>
・正の字でカウントしてそれを漏れなくホワイトボードに書き加えていく
・SFAを有効活用する
アナログでもデジタルでも測定方法は問題ありませんが、SFAを活用していただくとさらなるメリットを享受することができます。
<SFAのメリット>
・過去の実績と比較することで、より効果的な手法を生み出すことができる
・他の数値と組み合わせた分析ができ、関連する営業活動も併せてマネジメントできる
・KPIで設定した要素以外で、うまくいかない要因を把握できる可能性がある
上記のように、本来の取り組むべき活動やマネジメントを実践するのにあたり、その効果性を高める武器、ツールとして活用することができる強い味方がSFAなのです。
手順(6)KPIのチェック方法・頻度を決める
SFAを活用してKPIをチェックするのであれば、入力したKPIの項目をダッシュボードに常時表示させることがチェック方法の一つとして有効と言えるでしょう。
ここで認識していただきたいのが「そのチェックをどのような頻度で行うことが目標(ゴール)を達成することになるのか」という思考です。
計測した結果だけを見て良し悪しを確認することが、KPIを設定する目的ではありません。「目標を達成する」のがKPIを設定する目的です。
目標達成に対して手遅れになっているタイミングでKPIの数値を把握しても意味がありません。取り返しがつく頻度で、KPIのチェックすることを確実に守りましょう。
【例】下記3つの条件が決まっているケース
条件1:1件の受注を取るためには4件提案すれば良いことが、これまでの実績値から分かっている
条件2:KGI=月間で受注1件
条件3:KPI=月間で提案4件
<NG>月末にKPIの数値をチェック
月末にKPIをチェックした際、受注0件でKPIである提案数は3件となる可能性が大いにあり得ます。
「提案を3件しかしていなければ受注はできない」という理屈はわかりますが、チェックするタイミングが月末のため、その月は取り返しがつきません。
<OK>二週間ごとにKPIの数値をチェック
KPIが月間提案4件と設定しているため、二週間の時点で本来2件の提案が適切な進捗です。最初の二週間でKPIの数値をチェックしたとき、提案できている件数が1件であることが明確となったらどうでしょうか。
月末のチェックでは挽回できません。しかし、二週間ごとにチェックしていれば残り二週間のあいだで3件提案すれば取り返しがつきます。4件の提案を完遂することができれば、これまでの実績から考えて1件の受注が獲得できる=目標(ゴール)が達成できることになります。
SFAは目的を鑑みて適切に設定し有効に活用すれば、その効果性はとても高いものとして発揮され、皆さんのビジネスに大きく貢献してくれることでしょう。
ただし「目的」や「有効に活用」を満たすためには、「自らのビジネスの在り方」や「あるべき姿」が明確になっていることや、「あるべき姿を正しくマネジメントする仕組み」が先に立つ必要があります。
SFAに頼るのではなく、自社のあるべき姿を実践するためのツールとして活用する。そのような意図を持った上で、実践的な取組みができてこそSFAを強力な味方として確立することができます。
そもそもの「あるべき姿の構築」や「マネジメント設計」についてご興味があれば、お気軽にソフトブレーン・サービスにお声がけください。
皆様がSFAの有効活用により望ましい成果に繋げていただくことをお祈りいたします。
宮田 純(みやた じゅん)
ソフトブレーン・サービス株式会社 シニアコンサルタント
一般財団法人 プロセスマネジメント大学 事務局長
1977年(昭和52年)、北海道出身。
大学卒業後、新卒で人材サービス会社に入社(営業職)。25歳で営業リーダー。30歳でBPO事業を立ち上げ、営業、業務設計、人員採用、業務マネジメント、PJT管理、一連の全ての業務を行い、事業化を推進。3年間で110名の事業本部となる。
その後、医療に特化した人材サービス会社に転職。営業部門の事業部長。72名のマネジメントを行い、業績向上、入社1年2ヶ月後のマザーズ上場に貢献。「遠隔診療」事業を立ち上げ、政府が推進している遠隔診療事業化のさきがけとなり、1年で正式な事業部のひとつとなる。続けて「看護・介護派遣」事業を立ち上げ、同じく1年で事業部となる。
上記の経験を活かし、ソフトブレーン・サービスに入社し、現在に至る。